の続きです。
前回、『スローセックス完全マニュアル※1』を元に、アダム徳永さん(以下アダムさん)が提唱されている「スローセックス」を理解する上での、重要な考え方やキーとなる性メカニズムについてご紹介しました。
引き続き本の内容を紹介しつつ、今回は、既存のセックスの思い込みから抜け出し、新しいセックス像をインストールしていきます。記事2つ分くらいのボリュームがありますが、重要なところなので一気にご紹介します。
もしかしたら、途中で読むのが辛いと感じられる方がいらっしゃるかもしれません。その際は、どうぞ性をご自身の人格から切り離して読み進めてくださいね。「切り離すって?」と思われた方はこちらの記事をご覧ください。
ジャンクセックスとは
ここで改めて、既存のセックスについてみてみましよう。
アダムさんは、「スローセックス」に対して、既存のセックスのことを「ジャンクセックス」と呼び、疑問を投げかけられています。
今、皆さんが「フツー」だと思っているセックスの、最大の間違いは何だと思いますか?それは、セックスにかける時間です。当スクールの男性受講生にアンケートをとったところ、前戯15分、挿入5分、合わせて20分というのが、所要時間のアベレージでした。あまりにも短すぎます。
以前ご紹介した、日本人のセックスに関する統計調査「ジェクス ジャパンセックス サーベイ2020※2」にも、1回のセックスにかかる時間(前戯から終了まで)の調査項目があり、5分以内から1時間以上と様々ですが、平均時間は「男性31.0 分、女性29.1 分」でした。なので、だいたい20−30分がリアルな時間と言えそうです。
現代人のセックス を再現してみましょう。
”キスしてオッパイを触って、クリトリスを舐めてから挿入してイク”。たった1行足らずで終わってしまいました。これは、生殖本能に毛が生えた程度の単なる射精行動にすぎません。私が既存のセックスを”ジャンクセックス”と呼ぶ理由もここにあります。p20−21
私がこれまで経験してきたセックスもだいたいこんな感じでした。
セックスってこういうものだと思いつつも、ルーティンのような刺激の仕方や目的に向かって急ぐことへの違和感をいつも感じていたように思います。
ここでは、セックスにかける時間を問題とされていますが、ただ時間をかければいいのかというと、そうではありません。
スローセックスとは、長時間セックスではなく、”時間を忘れて楽しむセックス”なのです。
p71
まだちょっとピンときませんね。
ここを理解するには、さらなる性メカニズムへの認識が必要になります。
男性は火の性、女性は水の性
前回の投稿で、コップにたまる水を例に性エネルギー(快感と性的興奮によって生じるエネルギーのこと)の話に触れましたが、もう一つ別の角度から性エネルギーの性質について紹介されています。
それは「男性は火の性(しょう)、女性は水の性」という性質です。
瞬時に発火する男性の性欲に対して、女性のカラダは沸点に達するまでにある程度の時間がかかります。
p115−116
図にしてみました。
男性と女性では、快感への昇り方が異なるんですね。
たとえば、やかんに入れた水を沸騰させる時、ガスバーナーで一気に熱しても、水はなかなか沸騰しませんよね。どんなに強い火力でも、時間が短いとお湯にはならないのです。愛戯が短いセックスはこれと同じ、すなわちジャンクセックスです。火である男性が自分の性質のみに従ってしまうため、短絡的なセックスになってしまうのです。
p82−83
愛戯というのは前戯のことで、沸騰というのは快感に達した状態です。男性が自分の性質に合わせてセックスをすると、女性は十分に快感を味わう前に終わってしまい、不完全燃焼となってしまいます。
なんとなく気付いてはいたけれど、ちゃんと考えたことがなかった…図にすると男女のすれ違いが一目瞭然で、愕然としました。
また、男性は射精すると火が消えてしまいますが、女性は一度沸点に達するとその温度はなかなか落ちません。一度沸点まで達した女性は、繰り返しオーガズムを迎えることもあります。
繰り返されるオーガズムは、「女性の絶頂ブログ」をご紹介した記事の中の「イクは1回だけじゃなかった」に書いた通りです。
そして、女性をこのような状態に導くためには
沸騰するには時間がかかる女性のゆったりとした時間感覚に、男性が合わせるということです。
p116
これも、図にしてみました。
男性の立ち上がりを後ろへずらせば、それだけ長い時間、楽しむことができますし、女性も心から満足できるセックスができるのです。
ここで男性のみなさんは、新たな疑問が出てきたと思います。
- 早く射精したいのに、どうしたらいいんだ
- 後ろにずらすということは、奉仕する時間が長くなるのではないか
ごく自然な疑問だと思います。
しかし、これこそが既存のセックスの罠だと、アダムさんはおっしゃっています。
どういうことでしょうか。順番にみていきます。
射精の放棄
まず一つ目の疑問ですが、アダムさんは、そもそもの射精について男性読者に思い切った提言をされています。それは「射精の放棄」です。
「えっ…!?」と、きっと驚かれたと思います。
「射精をしなければセックスが終わらないじゃないか?」
まさにそれです!”射精したら終わり”という今の間違った時間感覚を取り払い、”永遠に続く愛”の時間感覚への軌道修正することが、射精を放棄する最大の目的なのです。
「射精の放棄」は、女性の私でも驚きました。また、「永遠に続く愛」と言われても…と思われたかもしれません。
あなたは、少なくとも今まで普通にしてきたセックスでは百点満点の満足が得られていないからこそ、本書を手に取られたはずです。百点満点を取るためには、今までのセックスを大改革しなければならないのです。その第一歩が射精の放棄なのです。
p62
引用ばかりになってしまいますが、続けます。
(平均20分、長くてせいぜい1時間程度の)時間内に、拙速に「イク」という結果を出そうとするから、セックスが終わるまでの過程がすべて中途半端でおざなりなものになってしまい、男性だけイケて女性の性は置き去りとか、女性がイッたとしても、本来のポテンシャルからは、ほど遠い不十分な結果しか得られていないのです。
p63
女性の本来のポテンシャルや、「イク」から「感じる」へ意識をシフトすることの重要性は、前回の投稿の「イクと感じるは違う」に書いた通りです。
アダムさんは、交接(いわゆる挿入)に2−3時間かけられるそうなのですが、ずっと腰を動かされているわけではありません。
繋がり合い、会話を楽しみながら、時には冗談を言い合ったりしながら、自然に身をおくような、たゆたうようなゆったりとした動きの中で、愛する女性と一体となった幸福を楽しんでいるのです。
二人が感じ合った”気持ちいい波動”を、お互いのカラダとカラダの間に交流させていく幸福感を楽しんでいるのです。ですから疲れるなどということはまったくありません。お互いの気持ちいい性エネルギーが増幅されるので、逆に精気が漲ってくるのです。
p64
読みながら段々視界が晴れていくような感覚でした。
そう、こういう風にゆったりとした触れ合いを楽しみたいと、心のどこかで思っていた…
「永遠に続く愛」と表現されているのは、このようなゆったりとした幸福感・満足感のことだったのです。
ちなみに、アダムさんは決して射精を悪者にされているのではなく、射精にウエイトを置きすぎることに問題提起されています。
食事を例にすると、人間らしい豊かな食生活を送るためには、「食べ物を”エサとして食べない”」ことが重要です。セックスもまた、動物的な本能から一歩距離を置くことで、本当に気持ちのいい幸福感につつみ込まれるような、豊かな性生活を送ることができるのだと述べられています。
なお長時間交接のためには、男性側の射精コントロール(早漏改善)が必須ですが、アダムさんご自身がもともと、1分ともたない「超早漏」だったそうです。ですが、独自のトレーニングによって今では2時間でも3時間もコントロールできるようになられたそうで、この話はまた別の投稿で取り上げたいと思います。
(早漏克服の記事はこちら)
sexual-bookmark.hatenablog.com
言葉の再定義「挿入は性器同士の愛撫」
本能から一歩距離を置き、意識を変える一つの提案として、アダムさんは、セックスの場面でよく使われる、ある言葉を再定義されています。それは、
- 前戯 →「愛戯」
- 挿入 → 「ペニスによる膣への愛撫」「交接」
です。
前戯→「愛戯」
まず「前戯」ですが、「前」という言葉がつくことで「挿入前の行為」として捉えてしまうことに問題があります。
セックス は「キスをして、前戯をして、挿入して、射精する」という区切りや段取りがあるものではなく、交接(挿入)しながらキスしたり、愛戯をしたりと、複合的なもの。
頭の中から区切りや段取りをなくすことで、女性の反応をよく観察できる心のスペースが生まれたり、「感じる」ことを楽しみ、今この瞬間に集中する、心地よい時間が流れるのだと思います。
挿入はペニスによる膣への愛撫
これはかなり衝撃的な表現でした。確かに「挿入」という言葉から受けるイメージは、「前後のピストン運動」を連想させ、作業的で単調な動きです。
しかし
キスは唇と唇による愛撫であり、挿入はペニスによる膣への愛撫であると同時に、膣によるペニスへの愛撫
p65
言葉の表現を変えるだけで、自然と意識の向け方や体の動かし方が変わっていくのではないでしょうか。
実際、挿入は「性器同士の愛撫」なのだと捉え直した時、ゆったりとした触れ合いや、体がシビれるような感覚が脳内に広がっていきました。
射精よりも楽しいこと
もう一つの疑問も見ていきましょう。
アダムさんは時間をかけて女性を愛撫することで、「射精よりももっと楽しいことがある」とおっしゃっています。
男性は、射精を少し我慢するだけで、今まで見えなかったことが見えてくるようになるのです。それは、女性の本当の美しさです。
p67
この世の中に、セックスで官能する女性ほど美しいものは存在しません。(中略)官能した女性が見せる肉体表現は、どんな芸術作品より美しく、どんな官能小説よりもエロティックです。本当の女性美は、いかなる男性も虜にしてしまうのです。
p70
虜と化した男性は、射精のことも忘れ、時の経つのも忘れて愛撫に夢中になります。ましてや官能する女性は、時間のことなど頭の片隅にもありません。これが本当のセックスの醍醐味です。
p71
官能している女性の美しさは、何度も登場していますが、「女性の絶頂ブログ」の紹介記事をご覧いただければと思います。
sexual-bookmark.hatenablog.com
さらに深く知りたい方は、こちらもどうぞ
sexual-bookmark.hatenablog.com
スローセックスとは
さて、最初の方で引用した「スローセックスとは、長時間セックスではなく、”時間を忘れて楽しむセックス”なのです」の意味が、ここにきてご理解いただけたのではないでしょうか。
ごくごく、簡単に言ってしまえば
ジャンクセックス = 生殖行為
スローセックス = 愛し合う行為
と言えるのかもしれません。
時間を忘れ、快感に浸り、女性の官能美にみとれ、幸福感を循環させるのが、スローセックス。
そして、そのようなセックスを実践した結果、どのような変化が男女にもたらされるのでしょう。
愛すれば愛するほど、男性の腕の中で光輝く女性という大切な存在を、ぜひ実感してください。それは同時に、愛された女性が、男性とはなんて素晴らしい生命体なのかということを発見する瞬間でもあるのですから。
p79
深い喜びが循環している状態。このような状態になってみたいと、素直に思います。
そして
セックスでしか感じられない愛というものがあります。(中略)本当に気持ちいいセックスでなければできない心の交流があるのです。
p40
私はずっとセックスに対して罪悪感を持っていたけれど、悪いことでも恥ずかしいことでも、はしたないこと、汚らわしいことでもないんだなぁ。
それどころか
人間は幸福になるためにセックスをするのです。セックスは神様が人間だけに与えてくださったプレゼントなのです。
p17
女性やセックスのことを、こんな風に表現してくださる男性が存在するなんて。
これまでの思い込みが溶けていく…
私がずっと知りたかったセックスの本来の姿がここにありました。
目的に向かう本能的なセックスから一歩距離を置くことで見えてくる、今まで知らなかったセックスの素晴らしさとパワーをこの本は伝えてくれています。
いかがでしたでしょうか。
私が本書を読んだ直後に感じたのは、「驚き」以上に「嬉しさ」でした。女性の言葉にならない気持ちがそこに表現されていたからです。
これまで多くの女性が漠然とながらも感じていたであろう、現状のセックスに対する違和感や、本当はこんな風に触れて欲しいと思っている願望、自分自身でも知らなかった(でも意識の奥底では気づいていた)女性が本来持っている潜在能力や美しさを、言語化して伝えてくださっていると思いました。
しかも、今年になって、本書に書かれているようなノウハウがYoutubeで発信されているのです。
次回は、スローセックスの実践方法を、本書の内容に沿ってアダムさんのYoutubeとともにご紹介していきたいと思います。
(続きの記事はこちら)
参考・引用文献
※1) アダム徳永. 実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル. 講談社, 2011.
※2) “ジャパンセックスサーベイ2020”. ジェクス. https://www.jfpa.or.jp/pdf/sexservey2020/, (参照 2020-8-23).